(目次)・TOP
・ジャニーズ事務所がラジオ営業担当を新設←ラジオ放送回数はBillboard JAPAN HOT 100の構成項目
・滝沢秀明社長が率いるTOBEは配信中心、まずは世界配信サービスでの日本チャートインを目指す
・アイドルが配信・特にストリーミングで勝つのは容易ではない→最初はファンが頑張る必要あり
・国内アイドルのビルボード対策普及のきっかけはSKY-HIの発言→INIやジャニーズのファンの一部にも波及
・ K-POP系アイドルは世界的大ヒット曲は日本の配信チャートでも楽勝だが日本リリース曲は概して苦戦
・チャート対策とチャート・ハッキング対策のイタチごっこは続く→いちいち動じず必要なことをする
いわゆるビルボード対策、つまり総合ソングチャートのBillboard JAPAN HOT 100の上位にランクインするためにファンや事務所・レーベルが行う対策は、2021年秋のSKY-HIのビルボード重視発言をきっかけに、国内アイドル市場でも徐々に広まってきたが、ここに来てついに、配信を部分的にしか解禁していないジャニーズ事務所も動き出した。
ジャニーズ事務所がラジオ営業担当を新設←ラジオ放送回数はBillboard JAPAN HOT 100の構成項目
今までテレビ支配だけで無敵とみられていたジャニーズ事務所が最近、ラジオでレギュラー以外の他番組に新曲を売り込むためのプロモーターを置いたことが、話題になっている(東スポWEBの2023年8月3日5:16配信記事「ジャニーズ事務所の“営業”に変化 ラジオ担当を新たに配置、TOBE対策か」を参照)。
これをジャニー喜多川性加害問題によるテレビ業界掌握力の後退への穴埋め策と捉えている人もいるだろうが、音楽チャート対策、とりわけBillboard JAPAN HOT 100の対策をやったことがある人なら、「ああ、ビルボード対策を始めたんだ」とピンと来ただろう。
今や日本でどんな曲が流行っているかの指標として最も重視されている週間音楽チャートはBillboard JAPAN HOT 100、と言えそうだ。たとえば2023年7月24日~30日の週なら、1位はYOASOBI「アイドル」、2位は米津玄師「地球儀」、3位はBTSのJung Kookの「Seven (feat. Latto」、4位は日向坂46「Am I ready?」だ。
Billboard JAPAN HOT 100の構成項目は、CDシングル売上、ダウンロード売上、ストリーミング再生数、動画(公式音源入りのMV等)再生数、ラジオ放送回数、カラオケ使用回数だ。これらに非公表のウェイトがかけられて、Billboard JAPAN HOT 100のポイント数が決まる。
つまり、Billboard JAPAN HOT 100の上位チャートインのチャンスは、CD売上が相当多い曲か、ストリーミングやダウンロードに強い曲のどちらにもある。特に、ストリーミングで圧倒的に強い曲は、何カ月もチャートインを維持して、ロングランヒットを達成する傾向にある。逆に、配信未解禁でCD売上が大したことがないと、チャート登場が困難だ。
これまでオリコンのCD売上チャートだけ重視してきたジャニーズ事務所すらも、世の中の流れに沿ってファンがBillboard JAPAN HOT 100を気にするようになってきたから、ビルボード対策の1つとしてのラジオ放送回数対策にスタッフを配置したと思われる。
ジャニーズにはまだ配信未解禁の人気グループも多い(Snow Man、SixTONES、なにわ男子など)が、彼らのファンの一部は数年前から既にビルボード対策をとっていて、過熱して指標採用廃止になった“ツイート数”、MV再生、ラジオ番組での曲かけリクエストで頑張ってきた。
しかし、ラジオ放送回数部門内で1位や上位を獲るには、ファンの番組リクエストだけでは不十分だ。パワープレイに採用してもらったり、いろんなラジオ番組にゲスト出演する代わりに曲をかけてもらったりするほうが、はるかに効率がいい。それには、事務所の営業が不可欠だ。だから、ジャニーズ事務所がラジオの新曲プロモーション専任スタッフを配置したのだろう。
滝沢秀明社長が率いるTOBEは配信中心、まずは世界配信サービスでの日本チャートインを目指す
一方、ジャニーズ事務所を退所してTOBE(トゥービー)を立ち上げた滝沢秀明TOBE社長は、世界進出を目指して配信中心で楽曲をリリースして行く方針を明かし、ファンに配信チャート対策に協力してほしい気持ちを示唆する発言をした(日刊サイゾーの2023年8月1日21:00配信の「滝沢秀明氏、配信の再生数を稼ぐ方法に言及で物議・・・ファンの過剰な推し活を煽る?」を参照)。
滝沢秀明社長はBillboard JAPAN HOT 100には言及していないが、ストリーミング・チャートの上位に登場する楽曲は、ストリーミング重視のBillboard JAPAN HOT 100の上位にも入りやすくなる。Apple MusicやSpotifyなどの日本チャート同様、ネットで公開されているBillboard JAPAN HOT 100も、もちろん海外からもチェックされる。
今やCD売上競争をしているのはCDを積むことに慣れた日本国内アイドルやK-POPアイドルのオタクくらいで、世界的に見ても、日本国内で見ても、音楽を配信で聴くことが当たり前になりつつある。
正直、薄利多売の音楽配信よりも、利幅の厚いCDを売ったほうが当面は儲かるだろう。しかし、滝沢秀明社長は「音楽は配信が当たり前」「良い曲は配信で世界で愛される」という時代の到来を見据えて、今から配信で勝てる体制づくりを急いでいる。
それは正しい。国内でも、今やレコード大賞のノミネートや「NHK紅白歌合戦」の初出場の選考でどんな曲が流行っているかを考える際にも、ストリーミング再生数は重要指標の1つと考えられるようになりつつある。それに、そもそも国内の音楽ファンに評価されない曲が海外で評価されるとは、考えにくい。
アイドルが配信・特にストリーミングで勝つのは容易ではない→最初はファンが頑張る必要あり
しかし、アイドルにとって、人気アーティストがひしめく配信で勝つことは容易ではない。
アイドルファンの利用が多いLINE MUSICなら、キャンペーンを張ってLINE MUSIC内ランキングで上位に登場するのは比較的簡単だ。しかし、はっきり言って、LINE MUSICチャートで1位になっても、世界には行けない。
世界でも認められたいとなると、Apple Music、Spotify、Amazonという世界的配信サービスで、日本チャートに登場することから始めることになる。しかし、そこは人気アーティストたちとの戦いの場だ。
決して容易なことではないから、配信チャートに登場できるようになるまでは、ファンが頑張る必要がある。
ダウンロード・チャートで1週間だけ1位または上位に登場すればいいなら、何とかなる。ジャニーズで配信リリースのみのTravis Japanは、このハードルはクリアできた。だが、次の週はいきなり圏外に転落して、音楽ファンの目に全く触れなくなってもいいのか。
ストリーミングでは、何週間もチャートインすればロングランヒットの道が開けるが、アイドルには難しい。しかも世界的配信サービスでの日本チャート登場(たとえば上位100位)となると、1週だけでも相当難しい。それでも、ファンは推しのためなら頑張る。「スミン」という言葉は、アイドルファンによる「ストリーミング」の略称用語として既に定着した。
国内アイドルのビルボード対策普及のきっかけはSKY-HIの発言→INIやジャニーズのファンの一部にも波及
国内アイドルがBillboard JAPAN HOT 100および配信チャートを重視するようになった大きなきっかけは、2021年11月にデビューしたBE:FIRSTの生みの親のSKY-HI(BMSGの日高光啓社長)の発言だった。
同じ日にBE:FIRSTとLAPONEエンタテインメント所属のINIがデビューすることになり、チャート1位争いが不可避となったところ、SKY-HIはBillboard JAPAN HOT 100の1位を狙いたいとの意向をはっきりと口にした。
結果、INIはCD売上では週間1位だったが、Billboard JAPAN HOT 100の1位はBE:FIRSTが制し、SKY-HIは「今の時代、有益な指標となっているのはBillboard」「神に愛された1位」と喜んだ。
SKY-HIはCDを積むオタクの不健全さを非難しているが、いきなり新人のダンス&ボーカルグループのBE:FIRSTがBillboard JAPAN HOT 100の1位という偉業を達成できたのは、ほかならぬBESTY(BE:FIRSTファン)の熱心な層がビルボード・チャート対策で頑張ったからだ。SKY-HIの鶴の一声で、BESTYはビルボード対策の達人となった。
デビューの際にBE:FIRSTとチャートでのライバルとなったINIのファンの一部もビルボード対策の洗礼を受け、その後も対策に取り組むようになった。
また、配信を部分的にしか解禁していないジャニーズでも、音楽的プライドの高いSixTONESのファンの一部などが、積極的にビルボード対策に動くようになった。ダウンロードやストリーミングが解禁されていないため、ツイート数(その後ビルボード指標採用廃止)、MV再生、ラジオリクエストなどで頑張った。
K-POP系アイドルは世界的大ヒット曲は日本の配信チャートでも楽勝だが日本リリース曲は概して苦戦
一方、K-POP系アイドルの場合、韓国でリリースした世界的大ヒット曲は日本のストリーミング・チャートやBillboard JAPAN HOT 100でも上位に登場しやすいが、日本発売のCDのタイトル曲などの日本オリジナル曲は苦戦する例が多い。
これは、K-POP系アイドルの日本の運営やファンの多くがまだCD売上重視で、ストリーミングやビルボード対策の知識に乏しく、業界の変化の波に乗り遅れているからだろう。
日本のK-POPオタクは、推しの日本のストリーミング・チャートでの成績よりも、韓国MelOnでの音源成績(ストリーミングのユニークリスナー数。音楽番組でのランキングに影響)のほうを、はるかに気にしているのが現状だ。
チャート対策とチャート・ハッキング対策のイタチごっこは続く→いちいち動じず必要なことをする
なお、余談だが、ビルボード・チャート対策のうちのストリーミング対策の中には、まさしく滝沢秀明TOBE社長がTikTok生配信で言及した手法もあるが、滝沢秀明社長は、配信サービスやビルボードによるチャート・ハッキング対策にまでは詳しくない模様だ。
たとえば、滝沢秀明社長が言及したとされる、「寝ている間もエンドレスで単曲リピート再生」は、LINE MUSICとApple Musicでは可能とみられているが(ただし両方とも別の制約事項がある)、SpotifyではNGでプレイリスト再生が基本だ。
ファンや事務所がチャート対策をすれば、配信サービスやYouTubeやビルボードはそれに対抗してチャート・ハッキング対策をする、というイタチごっこは今後も続くから、いちいちルール変更にビビらず、その都度情報収集して必要なことをする、と大きく構えておきたい。