宇多田ヒカルアルバム「初恋」感想―多彩で凄い、どこかはかなさも

2018年6月28日

宇多田ヒカルの2018年6月27日発売のアルバム「初恋」を聴いた。今さらだが、難度の高い曲を圧倒的歌唱力・表現力で歌い上げているのだけでもさすがだが、全ての楽曲を制作し、サウンドプロデュースも自ら行う宇多田ヒカルは、トップアーティストと呼ばれるにふさわしい、凄い人だ。

アルバム「初恋」は全12曲収録で、既にCMやドラマ・映画などでお馴染みのタイアップ曲も多い。映画主題歌「あなた」やドラマ主題歌「Forevermore」などは、曲を聴いただけで情景が思い浮かぶほど、詞もサウンドも感情豊かに映像作品の世界観を表現していて心を打たれる。

サウンドはR&Bあり、ジャズのテイストあり、癒しの音あり、不思議な感じの厚い音の重なりありと、多彩だ。詞はもちろん宇多田本人の体験だけを反映したものではないだろうが、筆者個人的印象では、満ち足りた人生という感じが全く伝わって来ず、深い詞もあって、まだ人生の旅の探求が続いている感じがする。芯の強さと同時にどこか切なくはかなげな作風を醸し出すアーティストだ。

CDアルバム「初恋」は発売日前日のフラゲ日・6月26日にオリコンの推計で7.9万枚（7万8,948枚）を売り上げてデイリー・アルバムランキング1位となった。ただ、アルバム「初恋」はCDと同時にデジタルミュージック配信でもリリースされているから、CDアルバムのみが売上の全てではない。

なお、CDアルバム「初恋」に封入されているシリアルナンバーで、11月6日～12月9日の「宇多田ヒカルTOUR 2018」の以下のライブ（いずれも19時開演）のチケット先行受付抽選に応募できる。転売防止のため顔写真登録が必要だ。

・11/6-7 横浜アリーナ
・11/14-15 マリンメッセ福岡
・11/22-23 日本ガイシホール
・11/28-29 大阪城ホール
・12/4-5 さいたまスーパーアリーナ
・12/8-9 幕張メッセ国際展示場9-11 ホール

以下は収録曲を聴いた感想（主として第一印象）だ。

アルバム「初恋」収録12曲の感想

「Play A Love Song」
サントリー南アルプススパークリングのCMソングで、2018年4月25日より配信されている。歌詞は重く始まるが、対照的にサウンドは軽快で爽快だ。素人が上手に歌いこなすには難しいが、さすが宇多田ヒカルだ。

「あなた」
堺雅人・高畑充希W主演の映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」の主題歌で、ソニーの「ノイキャン・ワイヤレス」のCMソングでもあった。映画の世界観を表現する詞が感動的で泣ける。サウンドは詞よりも明るいが、感情を揺さぶられ、リズム/グルーブと歌声に魅せられる。

「初恋」
アルバム表題曲「初恋」は2018年4月クールの杉咲花主演のTBS系火曜ドラマ「花のち晴れ～花男 Next Season～」のイメージソングで、5月30日より配信されている。1999年のファーストアルバム「First Love」の表題曲は初恋に破れた詞だったが、今回の「初恋」はまだ恋の始まりだ。でも、キラキラしたときめきよりも、恋する切なさのような感情が不思議な音の重なりと共に伝わって来る。

「誓い」
ゲームソフト「KINGDOM HEARTS III」のテーマソング。エコーがかかった声ではかなく幻想的な感じがする。最初はリズムが把握しにくかったが、字余りの詞を畳みかけるところがあったりした後に、ドラムのビートが大きくなって6拍子なんだと腑に落ちる。

「Forevermore」
2017年7月クールの長瀬智也主演TBS系日曜劇場「ごめん、愛してる」の主題歌だった。ドラマの世界観の切なさや理不尽さにマッチした詞と、哀しげでちょっとジャジーなテイスト入りのお洒落で、時々ワイルドだったりシャープだったりするビートのきいたサウンド。アウトロにかけてのパーカッシブなボーカルまで含め、ドラマティックな作品の仕上がりが凄いと思う。

「Too Pround featuring Jevon」
ラッパーのJevonが参加している。セックスレスのことを詞に盛り込んでいる。宇多田本人は今回のアルバムの中でもかなりお気に入り上位の曲と語っていた（Mikikiの2018年6月26日付「宇多田ヒカル『初恋』〈諸行無常〉という言葉があるけど、それを理解して受け入れるのはそんなに簡単なことじゃない」を参照）。

「Good Night」
2018年8月17日公開のアニメ映画「ペンギン・ハイウェイ」の主題歌。歌詞は少ないが、穏やかに始まり、切なくドラマティックに盛り上がって、また後退していく。

「パクチーの唄」
2018年6月27日の日本テレビ系「スッキリ」でこの曲が取り上げられていて、宇多田が10年くらい温めてきた曲、と紹介されていた。癒される感じのサウンドだ。[追記] 宇多田が明かしたところでは、イントロの「コリアンダー」と言う部分には、2015年に生まれた宇多田の長男の声も入っているそうだ（2018年7月18日付　「『プロフェッショナル仕事の流儀』で改めて宇多田ヒカルの凄さ、ラジオで息子の話」を参照）。

「残り香」
サウンドは明るいが感傷的で、歌詞は破局、恋人に去られた心の痛みや叫びを表している。、最後に絞り出すようなアカペラの歌声に心を締め付けられる。

「大空で抱きしめて」
明るい曲調の、サントリーの天然水のCMソング。前半の柔らかく包む込むような歌声と軽快なリズムを刻むギターの組み合わせが絶妙。それが訴えかけるような熱唱と感情的なストリングスの組み合わせになる。

「夕凪」
タイトルにぴったりのサウンドで始まる。抽象的な感じもあるが深い詞。全然満ち足りた人ではなく、今後どこに行くのだろうと思わせる。[追記] 3年以上かけて制作した曲。亡くなった母や死についての想いをうかがわせる。

「嫉妬されるべき人生」
「母の遺影」という歌詞が出て来るから、歌詞に宇多田ヒカルの人生を重ねてしまうが、こんな恋愛・こんな人生がいい、という強い意志を感じさせる詞だ。サウンドからは切なさも伝わってくる。