星野源が辿り着いた、自分がやりたい音楽（NHK「星野源スペシャル」）

2019年3月26日

2019年3月25日夜にNHK総合で「星野源スペシャル POP VIRUS ライブ＆インタビュー」がオンエアされた。今の日本の音楽シーンのセンターにいて、初の5大ドームツアーを成功裏に終えたシンガーソングライターの星野源の特集番組だ。

星野は番組中で、2016年にリリースした大ヒット曲「恋」（2016年）が、自分としては満足度の高い会心の作であったと振り返ったが、その後2018年8月に配信リリースした「アイデア」を制作していた頃に、転換期を迎えつつあったことを明かした。

「アイデア」は2018年4月から半年間放送されたNHK連続テレビ小説「半分、青い。」の主題歌として書き下ろしたヒット曲だ。ドラマで流れた1コーラス目は、ヒロインのキャラクターに合わせて明るい感じの曲というオーダーだったので、明るく前向きな曲に仕上がっている。

だが、星野にとって、自分がやりたい音楽が違ってきていた。「アイデア」をフルコーラス聴くと分かるが、2コーラス目の歌詞は暗く、心の中で葛藤しているかのような感じになっている。

それから突然音楽が途絶え、ライブ演奏では「闇」という詞に沿って、ステージも薄暗くなり、星野はアコースティックギターの弾き語りを始める。その後バンド演奏が再開されて盛り上がり、最後は2018年末の「NHK紅白歌合戦」でも披露したように、どらを叩いて終わる。

自分が辿り着いた、やりたい音楽

星野は2018年12月リリースのアルバム「POP VIRUS」での自分の挑戦ともなった、自分が辿り着いたやりたい音楽について述べた。

「もう嫌だよね、うんざりだよなっていう感覚の中にある温かいものだったり、愛だったり、一瞬あるかけがえのない瞬間だったりとか、あとは漠然とそばにいる誰か、生活していく生活の中の温度とか、そういうものを描いた時に、あ、俺これやりたいんだなっていうのが、実感として生まれたんですよね」

「本当にクソみたいだよねって中にある、愛みたいなものを描くのが、僕にできる歌なんだなっていうのが、制作をしてる時に辿り着いた答えですね」

星野は自分に酔っている人は嫌いだそうだ。「僕は傷ついたんだっていうことを歌にするって、どっか自分に酔ってる感じがするっていうか。それは傷ついたけど、それを歌にしてお金をもらって聴いてもらって、何かおかしくない？っていう感じがある」と述べていた。

星野はくも膜下出血という大病を経験しているせいか、独特の人生観・死生観を持っている。

星野は「（映画）『ダイハード』で、ブルース・ウィリスが、本当にどう考えても最悪なのに割とずっと冗談言ってるじゃないですか。あれいいですね。ああいうのが好きって言うか。あれ、人間のものすごい魅力の1つ、人間にしかできないですよね。僕も死にかけたけど、やっぱ冗談言いたくなるんですよ」と語った。

アルバム「POP VIRUS」については、「息苦しいんで、うんざりしてるんだけど、何かちょっと楽しいところに行きたいなっていう、自分の心をそのままアルバムにできた」と述べた。

筆者個人的には、初めてアルバムの表題曲「POP VIRUS」を聴いた時、星野源はこういう系統のサウンドの曲もやるんだ、とやや意外に感じた。

自身初の5大ドームツアーでは、達成感が大きかったそうだ。観客が日頃から星野の曲をよく聴いてくれていたのが伝わってきたそうだ。

また、ステージ演出では、星野は「セカンドステージでやったことは、僕がやりたいと思ってる音楽の形の1つの完成形」と満足そうだった。

具体的には、観客の方を向くのではなく、バンドのメンバーと「みんなで内側を向いて。リハーサルスタジオでみんなが向かいながら音楽を作っているさまと全く一緒」というスタイルを採用した。

「客さんに背を向けているのに、お客さんもちゃんと一部になってる。（バンドの）みんなで笑ってるのが、演奏のグルーブになる。あれは僕の理想の音楽像」とのことだ。「リハーサルにあった幸福な時間」をステージで実現したくて、セカンドステージではバンドのメンバーとリハーサルに近いスタイルで向き合って演奏した。